メイドin西川口(ハレ系)ヘルス
長閑 ひより
28歳 T161 B83(D) W57 H85
験
談
さっそく、サキに電話の件を報告しました。
「マジか!……良くやった、彼!」
「ゆうすけさんが褒められてる(笑)」
「だってさ、いつまでもメールのやり取りだけじゃつまんないでしょ」
「つまんなくはないけど……まぁ、実は私も、ゆうすけさんの声ってどんな感じかなーって気にはなってたから。向こうから電話の誘いが来てラッキーというか、こっち的にはすごくありがたい(笑)」
「どんな声してると思う? めっちゃイケボだったらどうする?」
サキはニヤニヤしながら聞いてきます。
「イケボってww うーん、どんな感じだろうね……」
約束していた電話の時間が近づくにつれ、〈ゆうすけさんの声が聞ける〉という実感が強くなっていきました。
それと同時に、どんどん現実味を帯びてきて、緊張も増していきます。
いつもなら家族とリラックスして食べる夕飯も、なんだか喉を通りません。
やけに喉が渇いて、普段あまり水を飲まない私が、いつもの倍以上の量を飲んでいたと思います。
そして、時刻は19時50分。
あと10分くらいしたら、ゆうすけさんから電話がかかってくるんだ……
ベッドの上で、なぜか正座している私。
そのすぐ手前には、スマホが置いてあります。
昨日は流れ的に「電話は平気」と返信していましたが、
本当は、平気なんかじゃありません。
話が続かなかったらどうしよう。
変な声だと思われたらどうしよう。
そんなことばかりが気になります。
無音だから余計に緊張するのかも……テレビでも付けようかな
ベッドから一旦降り、床に転がっていたリモコンを拾い上げて、電源ボタンを押しました。
テレビにはバラエティ番組が映り、楽しそうに笑う芸人さんの顔が見えます。
またすぐベッドに戻ろうかと思ったのですが、じっとしているのも落ち着かなくて、
スマホを持ったまま、動物園の熊のように自分の部屋をウロウロと歩き回ります。
ふと壁掛け時計を見ると、時刻はもう20時を過ぎていました。
あれ? 20時過ぎてるんだけどな……。
もしかしたら予定が変わって、今は難しいのかもしれない
そう考えた私は、ゆうすけさんに確認しようとメールを送ろうとしたその時────
ヴヴヴヴヴヴヴ……ヴヴヴヴヴヴヴ……ヴヴヴヴヴヴヴ……
!!
ど、どうしよう、電話かかってきちゃった!!
スッと出ればいいだけなのに、ドキドキしてすぐには出られません。
ヴヴヴヴヴヴ……ヴヴヴヴヴヴ……ヴヴヴヴヴ……
一度ためらってしまうと、もう余計に出られません。
ヴヴヴヴヴ……ヴヴヴヴヴ……
出なきゃ!
ここで出なきゃ、声聞けないし、話もできないぞ私!
自分にそう言い聞かせ、意を決して応答ボタンを押しました。
「もっ……もしもし?」
……
あれ?
ツーツーツーツーツー……
電話に出るのが遅すぎたのでしょう。
着信は切れていました。
しまった……
すると、すぐにゆうすけさんからメールが届きました。
[ 今は電話難しそうですかね。
ひよりさんが出られる時間帯があれば教えてください。掛け直します ]
ち、違うんです! ゆうすけさん……。
私がヘタレなばっかりに……orz
[ せっかく電話かけてくれたのにごめんなさい!
緊張してすぐに出られませんでした。 ]
[ そうなんですか(笑)
じゃあ、またすぐにかけます。
掛けてる俺も緊張してるんですから、
これ以上、掛け直しさせないでくださいね?(笑) ]
[ ありがとうございます、次こそはちゃんと出ます! ]
とメールを送ってから、5分もしないうちに、再びゆうすけさんから着信がありました。
ヴヴヴヴヴヴ……ヴヴヴヴヴ……
大きく深呼吸して呼吸を整えてから、応答ボタンを押しました。
「も……もしもし?」
「……もしもし」
「ゆうすけさん……ですか?」
「は、はい」
「あ……。あの、えっと……」
電話で話したいことを事前に考えていたはずなのに、全部吹っ飛んでいました。
どうやら私の海馬は、緊張にことごとく弱いようです。
ゆうすけさんの声をちゃんと聞きたいのに、自分のドキドキを抑えるので精一杯でした。
「緊張、しますね。
俺、手汗すごいことになってますよ(笑)」
「わ、私もです。緊張します! すごく……。
でも、声が聞けて嬉しいというか、ホッとしたというか、なんというか……」
「嬉しいって思ってくれて、俺も嬉しいですよ。
あ、そうそう。
野球の時、俺の視力がもっと良かったらなーって、もどかしかったです。
あの距離じゃ全然見えなくて。」
終始ワタワタしている私に対して、ゆうすけさんは緊張しながらも落ち着いて話していました。
その声を聞いているうちに、私のドキドキも少しずつ治まっていくのが分かりました。
「私も視力が弱いんです。
普段からメガネをかけてて……。
だから、反対側の客席も見えるわけなくて。。
ただ、見えないって分かってるのに、ゆうすけさんが居そうなところをチラチラ盗み見てました」
「盗み見た(笑)」
「あ! い、いや、別に変な意味じゃないんです」
双眼鏡で見ようとしてたなんて、口が裂けても言えない(笑)
「ww 分かってますって。
前から思ってましたけど、ひよりさんって言葉の表現が面白いですよね」
「え、そうですか?」
「はい。メールしてても、そう思います」
【面白い】は、私の中では言われて嬉しいことの一つです。
だから純粋に嬉しい。
でも、ボキャ貧だから、上手い表現が思いつかなくて、こんな感じになっちゃうだけなんだよなー……と、自分のアホさを痛感しました。
的確な表現を使えたり、言葉で上手く伝えられたりする人って、本当に尊敬します。
私なんて、表現が独創的で……造語を作るわ、言葉を混ぜるわ、勝手に略したりするわ。
それを「面白い」と笑ってくれる周りには感謝ですよ。
「だから、メールしてて楽しいです」
「あ、ありがとうございます!」
……そんな感じで、私達は1時間ほど色々な話をしました。
電話を切った後、熱くなったスマホの画面をティッシュで拭き、ベッドに寝転びました。
スマホの着信履歴を見ると、そこにはゆうすけさんの名前があります。
なんというか、優しそうな声だったなー……
さっきまで耳元から聞こえていた、ゆうすけさんの声を思い出します。
すると、無性に恥ずかしくなってきました。
私なんて、緊張でどもってたし、いつも以上に変なことばかり言ってたし、
テンション上がると早口になるクセも出てたよ……。
でも、ゆうすけさんは「また電話しましょう」って言ってくれてたけど……
実は、先ほどの電話で、
「これから毎週金曜の夜は電話しよう」
という話になっていたのです。
通話料金もかかるので、週ごとに交代で電話をかけることにしました。
そんなこんなで、毎週金曜日の電話が通算6回目になろうとしていた日の夜。
いつものように、ゆうすけさんと他愛ない話をしていました。
そろそろ寝ましょうか、という話になり、
「じゃあ……また来週ですね。
お休みなs「あ! ちょっと待ってください!」
「え、どうしました?」
「……ひよりさん」
「はい」
「来週は、
電話、お休みにしませんか?」
「あ、それは全然大丈夫ですよ。
そしたら、また都合の良い日を教えてください。
その時に電話しましょう」
「いや……。なんというか、その……」
もしかして、もう電話できないというか……そういうこと?
「…………」
「…………」
謎の沈黙が続きます。
「ら、来週……というか、
来週じゃなくても全然いいんですけど、
電話じゃなくて……
その……
直接会ったりすることって……出来ませんか?」
「……!」
え? 直接って……
直接、面と向かって会うってこと?
言っている言葉の意味は理解できるのに、状況がすぐには飲み込めませんでした。
「あ、すみません……こんなこと急に言われても困りますよね。」
「い、いえ、違うんです。困ってないですよ」
「そしたら……俺と会ってくれますか?」
「……はい」
「ホントですか!?」
「ほんとですよ」
「ありがとうございます!」
二人きりで会う約束をしたその日は、
ウルフさん、ゆうすけさんと知り合ってから、約5年と半年が経過していました─────。
次の週の月曜日。
学校帰りに寄った、いつもの喫茶店で、
サキに【ゆうすけさんと会う事になった】という報告をしていました。
「いつ、どこで会うの?」
「えっとね、今週の土曜日に……こっちの○○駅前に集合。」
「ここら辺って何も無いけどw」
「そうなんだよねー……。
お昼集合だから、まずはご飯食べて……。
その近くにゲームとかマンガとか売ってるお店あるでしょ?そことかブラブラする感じかなー。」
「まぁ、それが無難だね(笑)」
「……実はさ、
あの時(金曜日)は気持ちが先行して、会うって事にしたんだけど、
電話切った後、冷静に考えたら……やっぱり会わない方が良いのかな。って思ってきた。」
「えっ、何で?
……あ、そっか。元々ネット上でのやり取りだから、そういう意味で心配って事?」
「ううん。そこは心配してないよ。
だって、ゆうすけさんが仮に私の事騙そうとしてたら、もっと早い段階で会おうとすると思うし。
それに、今までのやり取りに疑うような要素は0だもん。」
「じゃあ、大丈夫じゃん。会わない方が良い理由なんてどこにも無いけど?」
「あるよ……。」
「え? なんかある?」
「だって……。
私、
可 愛 く な い もん!!」
突然の[可愛くない発言]にサキは一瞬固まり、そして……。
「ブハッw 何それwww」
飲もうとしていた水を軽く吹きました。
「えっww ちょっとw 大丈夫?」
私はそう言うと、自分のおしぼりで濡れたテーブルを拭きながら、サキのおしぼりを手渡しました。
サキはそれを受け取り、
「ごめんごめんw ひよりが急に変な事言うから。」
と言って口元を拭きます。
「可愛くないのは自覚してるけどさ……。」
”吹き出すほど笑わなくても良いのに……。”
「違う違う(笑)
ひよりが可愛くないって意味で笑ったんじゃなくて、
ひよりが[そういう事を考えるようになった]って事に驚いたというか、良い意味で[変わったなー]って思ったの。」
「??」
「だってさ、
ひよりってぶっちゃけ、自分の見た目を気にした事、無いでしょ?」
「あ、確かに……。」
思えば、小学5、6年生くらいから、周りの友達は段々とオシャレに目覚めると言いますか、
ネイルやファッション、メイクの事を調べたり、そういう雑誌を見たり買ったりするようになっていました。
でも、
その時、私がしていた事と言ったら・・・。
男子に混じって校庭でサッカーやドッジボールをして遊んだり、
ゲームの攻略法や必殺技を男子に伝授したり、
男の子が遊ぶような事が好きだったり、
男の子が欲しいと思うものを欲しがったり……。
挙句の果てには、
「女ってめんどくせーよな。」
と、男子が私に言ったその気持ちが、何故かちょっと分かっちゃうくらい。
見た目も中身も[女の子らしい]という言葉は似合わないし、程遠いような存在でした。
ただ唯一、気にしていた事とすれば[髪を伸ばす事]くらい。
「気にしてるなら、出来るとこからやっていったら良いんじゃない?」
「例えば?」
「色々あるけどさ……。」
と言いながら、サキはスマホを見ました。
「あ、もうこんな時間か。ひよりが明日大丈夫なら、さっそく明日見に行こ!」
「明日は大丈夫だけど……行くってどこに?」
「それは明日のお楽しみって事で(笑)」
「ええw」
次の日。
バスに揺られながら、昨日サキが言っていた[お楽しみな場所]へ向かいます。
そして、着いた先は……。
「え? 100均?」
「そう、ひよりが好きな100均w」
”100均に何の用があるんだろう?”
と考えている私をよそに、サキはとあるコーナーへ向かい歩き始めました。
「ガッツリメイクはしなくて良いというか、そこまでする必要は無いから……。
とりあえず、今は肌とか髪の手入れかな。」
サキはそう言いながら、棚に並べてあるボトルを見比べていました。
「化粧水?
化粧水って、
化粧してる人が付ける水じゃないの?」
その一言にサキはピタッと手が止まったかと思えば、急に振り返り、驚いた顔で私を見ます。
「冗談でしょ?」
「え? 違うの?」
「全っ然違う! 全 く 違 う !!w」
「めっちゃ強調するじゃん(笑)」
「化粧水は肌を整える為に使うものだから、化粧してるしてないは関係ないよ。」
「化粧を落とす水かと思ってた……。」
「ひより……ちょっと静かにして(笑)」
「ごめんなさい、黙ります」
「ひよりの事だから、
ここら辺のコーナーはいつも通過してたでしょ。」
「うん、完全にスルーしてた。」
「100均でもコスメは売ってるんだよー。
ドラッグストアとかでも売ってるけどさ、初めて買うならお試しって事で100均の方が良いと思うし。
まぁ、安いにはそれなりの理由があるから、全部100均で揃えるってのはやめた方が良いと思うけど。」
「どれが良くて、どれがダメなのか私にはさっぱり……」
「でしょうね(笑)」
その後も、サキは選んだ化粧品の用途や効果を一つずつ説明してくれました。
結局、100均で購入したのは、化粧水や乳液、チークやリップなど、必要最低限の物を幾つか。
100均を出た私達は、そのままサキの家に向かい、先ほど購入した化粧品の使い方を教わりました。
その日の夜から、入浴後はサキに選んでもらった化粧水や乳液を塗り、軽く足のマッサージをしたり、髪にオイルを付けたり……。
とにかく教わったことを実践します。
それから数日が経ち、
ついに土曜の朝を迎えました。
ゆうすけさんとはお昼頃に集合ですが、その前にサキの家に寄っていた私。
「何か変わったかなー……。」
「まぁ、ガラッとは変わらないけどさ、
何もしないよりは確実に変わってるよ。」
「そっか。」
「ひより、ちょっとメガネ外して。」
「うん。」
私がメガネを外すと、サキは私のまつ毛にビューラーをあてました。
「うわ、自分のなら簡単だけど、人にやる事ってまず無いからめっちゃ怖いw」
「私も怖いww」
「ちょっと!w 瞬きしないでw」
「違うの、瞬きしないようにしたいのに勝手に閉じちゃう」
「もう自分でやってw」
サキにビューラーを手渡され、おぼつかない手つきでビューラーを扱い……なんとかまつ毛を上げることに成功。
メガネを掛け、チークとリップを塗り……終了かと思ったら、サキは立ち上がり、
「ちょっと待ってて。」
と言い残し、部屋から出て行きました。
すぐに戻ってきたサキが手にしていたのは、ヘアアイロン。
コンセントに電源プラグを差し込み、温度を調節します。
「髪を真っ直ぐにするだけでも印象変わるよ。
綺麗な黒髪してるのに、ひよりは手入れしないからボサボサなんだもんw」
「乾かすの面倒くさくてさー……いつも自然乾燥なんだよね。」
「ダメだよ、今日からちゃんと乾かすこと!」
「はーい」
すると、ピピピッとヘアアイロンが温まった事を知らせる音が聞こえました。
「(アイロンするから)後ろ向いて。」
背を向けるようにして座り直すと、サキは慣れた手つきで私の髪にヘアアイロンをあてていきます。
「おお、なんか温かいw」
「アイロン自体は150度に設定してあるから、直接触ったら火傷するよ?w」
「え!? 怖っw」
「……よし、出来た。
あと、オイル付けてっと……。
はい、完成♪」
サキは近くに置いてあった手鏡を私に向けます。
「えっ、凄い! サラサラになってるー。」
自分の髪を触ると、手触りも滑らかになっている事に気づきました。
「ね? アイロンしただけでも変わるでしょ?」
と、サキは得意げに笑います。
「すごいすごい! サキ、ありがとう」
「どういたしまして(笑)
あ、そろそろ行く時間じゃない?」
「ほんとだ。……どうしよう、
気にしないようにしてたのに、何か具合悪くなってきた」
「今更ドタキャンはやめてあげてw」
「いや、もちろん行くには行くんだけどさ……(気分的に)吐きそうw」
「ちょっとw ホントに大丈夫?
あ、というか……髪を耳にかけた方が良いかも。
前髪も横の毛も全部真っ直ぐだと、貞子みたいになっちゃうw」
「誰が貞子だw」
サキにアメピンを1本貰い、少し分けた前髪を止めて、片側の髪の毛を耳にかけました。
「うん、その方が良いね」
「ありがとう。……よし、じゃあそろそろ行くね。」
そう言い、サキに見送られつつ家を出て、そこから5分ほど歩き駅に到着しました────。
続く
一緒にご飯を食べて、
好きなものを見て回った。
お気に入りの場所にも連れて行った。
そして、帰り際にもらった封筒。
あの日の私は、
まだ何も知らなかった。
封筒に書かれていた言葉のことも。
その後に届く、
メールのことも。
そして────
ゆうすけさんが、あの日どんな気持ちで
私の前に立っていたのかも。
次回、
君とのあいだに置いたもの
第4話 はじめての一日
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