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るり

るり

22歳 T154 B90(G) W58 H92



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るり
6月6日13時03分
by るり
るり(エステティーク谷九店) 【二癈人】

  
 どうも、ルリです。江戸川乱歩(1924年)『二癈人』を読み返した。4年ほど前に『吸血鬼』を読んでから様々な乱歩の作品を読んだのだが、『二癈人』は最も好きな作品である。数年経って読み返しても、今なお鈍い輝きがある。
 乱歩の作品からは、全体的に埃っぽさ・セピア色などの退廃的な色味・毒気・乾燥した空気、といったものを感じられる。少し埃のついた、日焼けしている古本が並ぶ怪しい古本屋のようなイメージだ。こうした印象やイメージは、日常の何気ない景色の中に不気味な空気を差し込ませる世界観と、それを構築する言葉が見せる心象だろう。

 
 [あらすじ]
 のどかな冬の温泉場の午後、湯から上がった部屋の主・井原氏と、湯治に来ている斎藤氏が懐旧談を語らっていた。冬日と火鉢で暖まる部屋で、斎藤氏は青島戦役の血腥い記憶を、砲弾の破片を受けた顔面や身体中の刀傷を見せながら語った。
 井原氏は懺悔話として、過去自分が夢遊病になってしまったことと、寝ているうちに犯してしまった様々な罪を打ち明けた。しかし、斎藤氏と向かい合って話すうちに、井原氏は徐々に違和感を憶えていく。


 さて、本作で印象深かったのは下記である。下記は話を聞く中で、井原氏の夢遊病で犯した罪の第一発見者が、毎回木村という男であったことに斎藤氏が気付き、木村が井原氏を陥れた可能性を述べた後の場面である。
■感情と温度の変化で表現される、生々しい不気味さ
 

  *「真青になった井原氏の顔色に気附くと、斎藤氏はふと話をやめて、何事かを虞れる様にうなだれた。
 二人はそうしたまま長い間対座していた。冬の日は暮るるに早く、障子の日影も薄れて、部屋の中にはうそ寒い空気が漂い出していた。
 やがて、斎藤氏は恐る恐る挨拶をすると、逃げる様に帰って行った。井原氏はそれを見送ろうともしなかった。彼は元の場所に坐ったまま、込み上げて来る忿怒をじっと圧えつけていた。思掛けぬ発見に思慮を失うまいとして全力を尽していた。
 併し時が経つにつれて、彼のすさまじい顔色が段々元に復して行った。そして、遂に苦い苦い笑が彼の口辺に漂うのだった。
「顔かたちこそまるで変っているが、あいつは、あいつは……だが仮令あの男が木村自身だったとしても、俺は何を証拠に復讐しようというのだ。俺という愚かものは、手も足も出ないで、あの男の手前勝手な憐憫を有難く頂戴するばかりじゃないか」
 井原氏は、つくづく自分の愚かさが分った様な気がした。と、同時に、世にもすばらしい木村の機智を、悪むというよりは寧ろ讃美しないではいられなかった。」※1*



➔斎藤氏は、第一発見者であった木村が井原氏を陥れたのではないかと述べたうえ、井原氏の罪を誰一人疑えないほどの、完璧に周りを欺く手口の説明まで「自分の考え」として説明した。さらに、その場合の木村の動機として敵討ちを推量した。
 ここまで聞き終えて、井原氏の斎藤氏に対して憶えていた違和感が或る確信へと変わり、表情も2人の間を流れる空気も、先ほどまで暖かかった部屋も、すべてがサッと青く冷え出したことが窺える。
 また、先ほどまで目の前にいた斎藤氏に対する、井原氏の感情の変化が生々しく描かれているのが、より物語の不気味さと不穏さを際立たせている。忿怒が虚しさと自虐に変わり、最後には憎むべき木村を讃美すらしている。自分を陥れた人間を讃美することが、忿怒も憎悪も、そして諦めと自虐をも超えた感情の、究極の行き先として示唆されていることが、なんとも背筋を寒くさせるのである。
 ここまで生々しいと、乱歩自身が井原氏と同じ体験をし、同じ感情に辿り着いた経験があるのではないかと思えてしまうほどである。実際に経験があったとすれば、ここまで気味悪さを残しながら言語化できることに至妙の技を感じられるし、経験がなければ想像力の深さも含めた乱歩の奇才ぶりを感じられる。
 



 そして、のどかな暖かい温泉場の午後という穏やかな光景であるのにもかかわらず、語らう2人の間には静かな緊張感が終始張り詰めているところには、乱歩らしい違和感を差し込ませる技巧を感じられた。
 井原氏が抱く斎藤氏への違和感だけでなく、時折何かを物語るように光る、1つしかない斎藤氏の眼を何度か描写することで、その緊張を維持している風に思われる。
 そういえば『吸血鬼』も、のどかな温泉場で不穏な影が少しずつ差し込み、やがて大きな恐ろしい出来事に至る作品だった。乱歩はこうしたテイスト・技巧の光る作品を描くことが得意なのだろうと、改めて認識した次第である。




 ほんじつも精一杯お癒やししますので、のんびりしていってください。よろしくお願いいたします。

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《参考文献》
※1 江戸川乱歩(1924年)『二癈人』、青空文庫、29-30頁。

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