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るり

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るり
6月10日13時02分
by るり
るり(エステティーク谷九店) 【夏の葬列】


 どうも、ルリです。山川方夫(1962年)『夏の葬列』を読んだ。数ヶ月も前に読み終えていたが、書こう書こうと思ったまま書けずじまいであった。山川作品について書くのは、『暑くない夏』以来である。



[あらすじ]
 あるサラリーマンの男は、久々に海岸の小さな町に来た。そこは戦時中に彼が疎開児童として、三カ月ほど過ごした街であった。時刻は真昼で、広い芋畑の向こうに葬列を見つけた。
 葬列を見ながら、男は過去の記憶の中に佇んでいた。あの夏にも、同じ疎開児童のヒロ子さんと海で遊んだ帰りに葬列を見たのである。ヒロ子さんは「子供が葬列に行くとお饅頭をもらえる」と言い、一緒に葬列へ向けて駆け出した。
 その時艦載機が飛んできて、ヒロ子さんは一緒に防空壕へ入ろうと彼に駆け寄った。しかし、彼は白い服を着ているヒロ子さんが下手に動くと標的にされかねないことから、拒否して彼女を突き飛ばした。その瞬間、ヒロ子さんは銃撃を受けて死んだ。彼はあの夏、殺人を犯したのである。


 さて、印象深かったのは下記である。※1は葬列に続く子供へ、遺影に写る女性について彼が尋ねた後の場面である。※2はすべてを知った彼が駅へ向かって歩き出す、最後の場面である。
■悲痛な覚悟の後に戻る風景



  「立ちどまったまま、彼は写真をのせた柩がかるく左右に揺れ、彼女の母の葬列が丘を上って行くのを見ていた。一つの夏といっしょに、その柩の抱きしめている沈黙。彼は、いまはその二つになった沈黙、二つの死が、もはや自分のなかで永遠につづくだろうこと、永遠につづくほかはないことがわかっていた。彼は、葬列のあとは追わなかった。追う必要がなかった。この二つの死は、結局、おれのなかに埋葬されるほかはないのだ。」※1
  「風がさわぎ、芋の葉の匂いがする。よく晴れた空が青く、太陽はあいかわらず眩しかった。海の音が耳にもどってくる。汽車が、単調な車輪の響きを立て、線路を走って行く。彼は、ふと、いまとはちがう時間、たぶん未来のなかの別な夏に、自分はまた今とおなじ風景をながめ、今とおなじ音を聞くのだろうという気がした。そして時をへだて、おれはきっと自分の中の夏のいくつかの瞬間を、一つの痛みとしてよみがえらすのだろう……。
 思いながら、彼はアーケードの下の道を歩いていた。もはや逃げ場所はないのだという意識が、彼の足どりをひどく確実なものにしていた」※2
 


 ➔彼が大人になって海岸の町へ来たのは、自分があの夏の記憶を過去に封印し、現在から追放することで自分の身を軽くするためであった。しかしながら葬列に続く子供に尋ねたことで、今回見た葬列の遺影の人物はヒロ子さんの母であり、かつ彼女がヒロ子さんを銃撃で失った後発狂し、死亡したと知った。
 これにより、彼はヒロ子さんだけでなくヒロ子さんの母の死に対しても、自分の罪の重さを感じることとなった。「葬列を追う必要がない」「2つの死はおれのなかに埋葬されるしかない」「もはや逃げ場所はない」という表現には、彼はもう封印も追放もできない、一生胸の内に抱えるべき罪を犯したことを悟り、かつそれを静かに受け入れる悲痛な覚悟が滲んで見える。
 そして沈黙の後、彼は風や海、汽車の車輪の音が戻り、芋の葉の匂いにも気づく。青く晴れた空と、相変わらず眩しく光る太陽も目に入る。私はこの沈黙から風景が戻るまで、『暑くない夏』でも見られた“行間に風が凪ぐ”感覚を憶えた。
 最後に、清々しく色鮮やかな夏の風景が、彼の罪を秘めるもの・彼の罪そのものとして、彼の胸の中で重く疼き続けることに生々しい痛みを感じられた。風景や温度・湿度・色彩・風の感触を巧みに描く山川だからこそ、残しえた感覚だろうと思う。

 
 

 ほんじつも精一杯お癒やししますので、のんびりしていってください。よろしくお願いいたします。
―――――――
《参考文献》
※1 山川方夫(1962年)『夏の葬列』、青空文庫、14頁。
※2 同上、15頁。

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