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るり

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るり
6月29日13時12分
by るり
るり(エステティーク谷九店) 【『あすへの話題』】


 どうも、ルリです。中谷宇吉郎(1962年)『あすへの話題』を読んだ。本作は、中谷が当時面白いと感じた「重力を断ち切る研究」「登呂遺跡の硝子玉」「岩絵具」に関する知見と、それらに対する中谷の所感が綴られた作品である。
 「重力を断ち切る研究」では、ファラデー、マクスウェル、アインシュタインの研究を踏まえ、“電気・磁気・重力=空間の歪み”とする統一場理論が実験的に証明されれば、重力を断ち切る方法が見つかるのではないかと述べられている※1。これも含めて、残りの2つの項目についても現実的な料簡のもとで思いを馳せたり、中谷の願いが垣間見えたりするところが印象的であった。
 次の「登呂遺跡の硝子玉」では、登呂遺跡で青色や緑色をした綺麗な硝子玉が発掘されたことが紹介されている。登呂遺跡は静岡市に存在する1-5世紀頃(弥生時代〜古墳時代)の集落跡であり、大和朝廷から距離がある集落で大陸や半島からもたらされたであろう代物が出土したことは驚くべきことだとして、中谷は下記の所感を綴っている。



  「倭人伝によると、当時の日本人は、顔に入墨をして、ほとんど未開人に近い生活をしていた。そして中国にたびたび入貢して、生口(奴隷)を献上していた。政治はシャーマン教の司である女王卑弥呼によって統べられ、それはたしかに半未開人の協同体社会であった。
 しかし倭人伝と同じ時代、あるいはそれよりも少し前の時代に、静岡の一隅の原始農村で、硝子玉の飾りをつけていた人もあったのである。
 小、中学校の歴史や社会の教科書に「景行天皇や神功皇后の時代」の説明として、人民は入墨をして水に潜って魚をとっていたことだけを、なんだかうれしそうに書くのは、少し考えものである。それもよいが、同時に、登呂の硝子玉のことも書いておくべきではなかろうか。」※2



 きわめて原始的な弥生時代後期に政治の中心から外れた集落で、硝子玉という当時では貴重な品物が存在したことは従来のイメージに一石を投じる事実である。また、交易でもたらされたにせよ、当時の貴重品を受け取るだけの権利や事情が登呂遺跡にあったと考えられもする。
 だが、これは歴史的には重要な事実ではあるものの、世間的には決して派手さや大きな規模感を感じがたい事柄ではある。しかしながら、そうした事柄を掬い上げ、その中に本質的な意味や重要性を見出している中谷の所感には、やはり中谷が具眼の科学者であることや中谷自身のスタンスが滲んで見える。
 最後に、「岩絵具」では岩絵具の色が化学的性質のみならず粒子の形状や大きさによって決まることに触れ、その応用について中谷は下記の所感を綴っている。



  「……一定の絵具を大先生に塗ってもらった場合と、われわれが塗った場合との差が、物理的に出てきたら、初めて科学も少し芸術の面に参与できることになるであろう。全く見込みのない話ではないので、たとえば粒子の画面上での配列に差があれば、それを識別する科学的な方法はある。閑があってそういう研究だけしていたら、楽しみなことであろう。」※3



 同じ岩絵具を素人とプロに塗ってもらい、粒子の画面上での配列における違いという観点から「プロの塗り方・素人の塗り方」を識別できるかもしれない、という確かな検証プロセスを考えつつも、どこか遊び心や好奇心が窺える。こうした点は、中谷の師匠が寺田寅彦であり、寺田の師匠が夏目漱石であるということを強く思い出させてくれるもので、個人的に非常に感慨深さを憶えた。
 私は中谷宇吉郎と寺田寅彦と夏目漱石の関係性を知る以前に彼らの作品を好んで読んでいたが、最近彼らの作品が好きな理由が判然としてきた感じがある。彼らの作品からは三者それぞれの異なる人柄や感性が感じられつつも、文章の中に見える観察眼や物事を捉える姿勢、興味や好奇心の向く先とそれらの発露の仕方、価値観や美学、信条といったものに、何か似通った軸が通っている印象を受けたためである。
 勿論師弟関係であれども三者全員が全く同じ軸を持つとは限らないが、根底に何か通ずるものが流れているからこそ成立した関係なのではないか、と思えてならないのである。



 ほんじつも精一杯お癒やししますので、のんびりしていってください。よろしくお願いいたします。
―――――――
《参考文献》
※1 中谷宇吉郎(1956年)『あすへの話題』、青空文庫、3-4頁。
※2 同上、7-8頁。
※3 同上、11頁。

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