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るり

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るり
8月1日13時00分
by るり
るり(エステティーク谷九店) 【怪談劇】

 どうも、ルリです。岡本綺堂(1956年)『怪談劇』を読んだ。岡本綺堂は1872-1939年を生きた小説家・劇作家で、戯曲や怪談、探偵物の作品を数多く残している。本作は夏に怪談劇が多く上演される理由から始まり、怪談劇において怪談の凄みを見せることの難しさや今後の怪談劇の行く末について、岡本の料簡が綴られた作品である。
 中でも特に印象深かったのは、怪談の性質から怪談劇の難しさについて考察されている下記箇所である。



  「これは演劇ばかりでなく、怪談全般に就いて云うべきことであるが、わが国在来の怪談はあまりに辻褄が合い過ぎる。たとえば甲が乙を殺したが為に、甲又は甲の眷族が乙の幽霊に悩まされると云ったような類で、勿論それには因果応報の理も示されているのであろうが、余りにその因果の関係が明瞭であるために、却って凄味を削減される憾みがある。しょせん怪談というものは理窟の判らないところに凄味もあり、興味もあるのではあるまいか。と云って、その理窟のわからない怪談を、舞台の上で凄く見せることは一層の難題であるに相違ない。今の流行詞でいえば怪談劇はトテモむずかしい。」※1



 確かに、日本三大幽霊(『四谷怪談』のお岩、『番町皿屋敷』のお菊、『牡丹燈籠』のお露)、日本三大怨霊(平将門の首、崇徳天皇、菅原道真)といった日本で語り継がれる代表的な怪談は、一部例外はありながらも復讐劇の要素が非常に強く感じられる。勿論これらには「死してもなお霊となって祟る」という恐ろしさはあるものの、その尤もな経緯からは彼らが霊として現れる目的や理由が、至極当然という気がしてしまう。
 そのためか、彼らが幽霊や妖怪といった「怪異的存在」ではなく「思いを残して亡くなった人間」として認識されてしまい、話自体も怪談としてではなく『忠臣蔵』のような人間ドラマとして捉えられてしまう感じがある。したがって、これらの有名な怪談は、この世ならざるものの放つ得体の知れない恐怖や後引く不気味さ、というものには欠ける印象がある。岡本が述べている「余りにその因果の関係が明瞭であるために、却って凄味を削減される憾み」というのも、恐らくこの印象に近いと思われる。
 また、「しょせん怪談というものは理窟の判らないところに凄味もあり、興味もあるのではあるまいか。」という岡本の料簡からは、その慧眼と感性を通して見出された岡本自身の怪談観を感じられた。私も岡本と同じ考えであり、怪異が起こった理由や怪異の正体、そしてこの世ならざるものの目的が不明瞭な怪談にこそ、強く引き込まれる傾向がある。こうした得体の知れなさ・後引く不気味さ・説明の出来なさを、恐らく岡本は「凄味」と表現したのではないかと思われる。そこはかとない強さを醸し出す、怪談に相応しい言葉の選択は至妙である。
 そして、岡本は怪談劇の今後について下記のとおり語っているのだが、こちらも印象深い記述であった。



  「いずれにしても、在来の怪談劇が現代の舞台の上からだんだんに消えてゆくのは判り切っている。そうして、それに代るべき新しい怪談劇が出現するかどうかと云うに、いかに文明が進歩しても、怪を好む人情の消え去らない以上、なんらかの形式に於いて怪談劇は依然繰り返されることであろう。」※2



 現代に目を向けると、確かに怪談の実演として怪談劇はあまり一般的に感じられない。代わりに実話怪談公演が、ここ最近は主流となっている印象を受ける。実話怪談公演は怪談劇であるとはいえないものの、「怪談の実演」という本質的な部分の一致から怪談劇が形を変えたものであると捉えれば、「なんらかの形式に於いて怪談劇は依然繰り返され」ていると考えられる。こうして見ると、完全一致というわけではなくとも岡本の先見の明は凡そ正しかったのであると思われる。
 最後に、「得体の知れなさ・後引く不気味さ・終始の不可解さ」という凄味を感じられる実話怪談の好例は、

・夜馬裕さんの「理想の家族」(「怪談鬼3 vol.5」収録)
・朱雀門出さんの「レネ●●ピスやエナルジン(自信なし)」(『妹が死んだ時の海亀』収録)
・木原浩勝さん・中山市朗さんの「虎渓の三笑」(『新耳袋 第五夜』収録)

あたりであると個人的には思う。
 ところで岡本は生前日本だけではなく、中国の怪奇小説を編訳した『中国怪奇小説集』(1978年)なども著しており、多くの怪談に触れて理解してきたからこその視点や感性を、本作からは感じられた。現代の実話怪談も良いが、昔の怪談からも岡本の感じた「凄み」を味わえるものを探してみたいと思った次第である。


 ほんじつも精一杯お癒やししますので、のんびりしていってください。よろしくお願いいたします。
―――――――
《参考文献》
※1 岡本綺堂(1956年)『怪談劇』、青空文庫、5頁。
※2 同上、4頁。

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