放課後クラブ(ハレ系)トクヨク
榊ノ下さえ
25歳 T165 B85(E) W58 H90
験
談

全く眠れなかった。胃が痛い。
でも学校には行かないといけない。
重い気持ちを抱きながら通学路を歩く。
学校に着くと教室はいつもと変わらなかった。机の並びも、窓の外の色も、ざわつき方も同じで少しだけ安心する。
四時間目まで普通に過ごした。授業も受けるし、当てられたら答える。自分がここにいることに特別な意味はないみたいに。
昼休みになる。
鞄から弁当を出して箸を持った、その瞬間。
「榊ノ下、ちょっと来てください」
補習の先生の声だった。
教室の空気がほんの一瞬だけこちらを見る。
私は返事をして、立ち上がる。
二人で廊下を歩く。
昼休みの廊下は、思ったより静かだった。
遠くの教室から笑い声が流れてきて、どこかで椅子を引く音がする。ワックスの匂いと少し冷たい空気。
先生の靴音が一定の間隔で前を進む。
私は半歩後ろを歩く。
窓から差し込む光が
床の白い線を強くしている。
その線を踏まないように
いつもは無意識に歩幅を調整するのだけど
今日はそんなことをする余裕はなかった。
「あの……バイトのこと……ですよね?」
声は思ったより小さかった。
「んー?」
先生は振り返らずに
曖昧な声を出すだけだった。
それ以上は何も聞けなくなる。
私は下を向いて歩く。床の傷や消えかけたテープの跡ばかりが目に入る。
先生が立ち止まる。
教科準備室の前だった。
「中に入りなさい」
私は一瞬だけ間を置いてから
横に引くようにドアを開ける。
擦れる音がして部屋の空気がゆっくり動く。
棚に並んだ教材と、積まれたプリント。
見慣れているはずのものが今日は少し遠い。
数歩進んで立ち止まる。
振り返らない。
目の前にある鏡で
後ろにいる先生の姿が見えた。
先生が後ろ手でドアについている鍵に手を伸ばす。下に下げるだけの、簡単な金具。
その手つきが妙に落ち着いていて、もう何度も同じことをしてきたみたいに見えてしまう。
私は何も聞かない。
聞いていいのかも分からない。
息を吸って、吐く。
それだけの動作が少し重い。
ここは教科準備室で
今は昼休みで
そして学校の中だ。
そう思い出そうとしているのに
体のほうが先に逃げ場がないと理解している。
カチャッという鍵が閉まる音が
やけに大きく響いた。
榊ノ下さえ。
私は今からここで何者になるのだろう。
榊ノ下さえ、シーズン1 完
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