放課後クラブ(ハレ系)トクヨク
榊ノ下さえ
25歳 T165 B85(E) W58 H90
験
談

昼休みの教室は、弁当の匂いと笑い声で満ちている。誰かが机を引く音、椅子が床をこする音、遠くで誰かが名前を呼ぶ声。それらが全部混ざってひとつの大きなざわめきになっている。
その中で、私はひとりページをめくっている。
紙の感触。
指に少しだけ引っかかる、あの質感。
『ムー』
世界の謎と不思議を扱う月刊誌。
古代文明、超能力、宇宙人、未確認生物。
証明されていないことばかりが並んでいるのに、不思議と嘘っぽくはない。
むしろまだ名前のついていない「何か」に触れている感じがする。
今読んでいるのは、東北で目撃されたユーマの特集だった。
夜の山の中。黒くて細長い影。
人のようにも見えるし、違うようにも見える。
熊ではないらしい。
人でもないらしい。
じゃあ、なに。
ページをめくる。
ぼやけた写真。不鮮明な輪郭。
こういう曖昧なものほど、気になる。
はやく続きを。
「榊ノ下さん!」
声が飛んできた。
顔を上げるとラグビー部だった。
まただ、と思う。転校してきてすぐから何度も声をかけられている。
「見てるからね!毎日パンくわえて走ってるでしょ!」
朝、時間がなくてただ走っているだけなのに。
「ラグビーやろうよ!」
パンとラグビーの関係もよく分からない。
私はまたページに目を落とす。
「え、聞いてる?」
聞いている。ちゃんと聞こえている。
でもユーマの方が気になる。
「…考えときます」
口だけで答える。本当は考える気もない。
私はページをめくる。
黒い影。説明文。
目撃者の証言。
どれも決定的ではない。
だからいい。
「今日も練習あるからさ!待ってるね!」
私は何も言わない。
「…また来るからね!」
ラグビー部は去っていった。
少しだけ静かになる。
私はまたページをめくる。
それにしても、しつこい。
どうしたらいいんだろう。
なんでそんなに部活に入れたがるのか。
そうか、私がどこにも属していないからか。
ページをめくる手を止めて少しだけ考える。
もし、どこかに属していたら。
もう声はかけられないんじゃないか。
勧誘される理由がなくなる。
…ん、それじゃあ。
入る必要はない。
作ればいい。
私は雑誌を閉じる。
ユーマの正体はまだ分からない。
でも、やることは分かった。
部活を、作ればいい。
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