放課後クラブ(ハレ系)トクヨク
榊ノ下さえ
25歳 T165 B85(E) W58 H90
験
談

俺の名前は山田太郎。
食パンタワーを持った榊ノ下と、角でぶつかったクラスメイトの男子だ。
あのときの衝撃は、物理的な意味でも、そうじゃない意味でもかなり大きかった。
それからというもの、俺は気づけば榊ノ下のあとをつけるようになっていた。朝も、放課後も、一定の距離を保ちながら、ただ観察するように。
ちなみに数学は100点だった。
だから俺は、わりと物事を論理的に考えるタイプだと思っている。
……思っていた。
だがしかし、たった今、論理的に考えてもまったく答えが出ない状況に置かれている。
榊ノ下と、一緒に帰っている。
あの榊ノ下さえと。
今まで後ろから見ていた存在が、今は隣にいる。距離が近い。近すぎる。現実味がない。
さっきのことを思い出す。
廊下で声をかけられたとき、最初は意味が分からなかった。
部活に誘われた。俺が?
頭の処理が追いつかず「え?」と「あ?」を繰り返しているうちに、思考がうまくまとまらなくなっていく。
そのとき、不意に浮かんだ。
あのとき見てしまった顔。
メガネのない、榊ノ下。
あの瞬間の映像が、頭の中に何度も再生される。整理しようとするほど逆にそこだけが強くなる。
思考の中心が全部そこに引き寄せられていく。
論理が機能しない。
気づいたときには、口が勝手に動いていた。
「……はい」
言ってしまった。
なぜ言ったのか説明がつかない。
論理的ではない。
だが、否定もできない。
今でも心臓がバクバクしている。
隣を歩いているだけで、鼓動がうるさい。
ばれないように、なるべく平静を装う。
榊ノ下は普通に歩いている。
「この先のパン屋、美味しいですよ」
急に話しかけてくる。
「あと、あの路地に猫がいます」
「……そうなんですね」
思っていたより喋るんだな、と思う。
もっと静かな人だと思っていた。
俺はうまく返せない。
心臓の音をごまかすので精一杯だ。
それでも、なんとか話をしようとする。
「な、何部なんだ?」
「まだ決まっていません」
即答だった。
……どういうことだ?
まだ決まっていない?
何が?活動内容が?方向性が?
それとももっと根本的な何かが
まだ定まっていないのか。
世界の始まりのようなものが。
それを榊ノ下さえが決めるのか。
俺はその場にいるのか。
一瞬で、思考が広がる。
そしてひとつの結論にたどり着く。
そうか、そういうことか。
俺は理解する。
すべてがつながる。
あのとき、ぶつかったこと。
素顔を見てしまったこと。
今日、声をかけられたこと。
全部に意味があった。
俺は
榊ノ下さえを輝かせるために存在している。
それが俺の役割だったんだ。
やっと分かった。
胸の奥で何かがすっと整う。
視界が開けてさっきまでぼやけていた景色が急にはっきりしてくる。自然と口元が緩む。
世界が少しだけ明るく見える。
「あ、俺、この道で」
足を止める。分かれ道だ。
「さえ様、俺はこっちなので大丈夫です。さえ様はあちらですよね。気をつけてお帰りください」
自然に言葉が出る。
「さえ様……?」
榊ノ下が、少しだけ首を傾げる。
俺は軽く会釈をしてそのまま歩き出す。
足取りが軽い。
気づけば少しスキップしていた。
世界が変わった。
色がついた。
俺の人生に、意味が生まれた。
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